はじめに
こんにちは、セーフィー株式会社で iOS エンジニアをしている篁です。
普段は Safie Viewer の iOS アプリを開発しています。
およそ1年半前に Registered Scrum Master 研修を受ける機会に恵まれ、それ以来 iOS チームのスクラムマスターをしています。
私のチームでは、1年前からスプリントの振り返りに Sailboat Retrospective というフレームワークを利用し始めました。利用してみていくつかのメリットを感じられたため、この記事で紹介させていただきます。
Sailboat Retrospective とは
Sailboat Retrospective は、スクラムチームがプロジェクトの振り返りを行うためのフレームワークの一つです。
プロジェクトをヨットでの航海に見立て、チーム (ヨットの乗組員) が目標に向かって進むための推進力 (追い風) や障害 (錨) などを視覚的に表現します。
私のチームで用いている具体的な要素とそのメタファーは以下の通りです。
要素 | メタファー | 内容 |
---|---|---|
Goal | ヨットが向かう島 | スプリントゴール |
Wind | ヨットを進める追い風 | プロジェクトを前進させるポジティブな要素や成功要因。例えば、良いコミュニケーション、良いリサーチ、なんでもOK |
Sun | 行き先を照らす太陽 | 嬉しかったこと、良かったこと。goal と関係なくてもOK |
Cloud | 影を落とす雲 | モヤモヤ気になることなんでも |
Anchor | ヨットの動きを妨げる錨 | チームの進行を妨げる課題や問題点。例えば、コミュニケーション不足、タスクに集中する時間が少ない、その他なんでもOK |
Reef (小) | 海中の小さな岩礁、目には見えないが進行を妨げる可能性がある | 近い将来、チームに悪影響を及ぼす可能性のあるリスクや障害 |
Reef (大) | 海中の大きな岩礁、目には見えないが進行を妨げる可能性がある | 将来、チームに悪影響を及ぼす可能性のあるリスクや障害 |
表にある要素以外にも、チームでオリジナルの要素を追加したり、不要な要素を除いたりして、チームに最適化していくのが良いと思います。
私のチームでは、普段から Figma の利用に慣れていたこともあり、FigJam の Sailboat Retro テンプレート を利用しています。他にも楽しいテンプレートが色々とあるようです。
各要素の振り返りを視覚的に見やすく整理することで、改善点の明確化と次のアクションプランの策定がスムーズに進みます。
最終的には、付箋やリアクションが貼られた以下のような状態になります。詳細内容については、後述の振り返りのアジェンダで説明します。
導入の経緯
私のチームでは、以前は KPT フレームワークを利用して振り返りを行っていました。
KPT は Keep、Problem、Try の3つの要素に対して振り返りを行います。
要素 | 内容 |
---|---|
Keep | 上手くいっていることや引き続き実施したいこと |
Problem | 課題や問題点、改善が必要なこと |
Try | 試してみたい新しいアイディアや改善策 |
KPT は、短時間で振り返りを行うのに適しており、チームがすぐに具体的なアクションプランを立てることができます。
しかし、手軽に振り返りができる一方で、以下の課題を感じていました。
- 反省会の意味合いが強くなり、固い雰囲気になる
- 要素が大きく分類されているため、少し抽象的な意見が出やすい
- 毎回似たような振り返りになりがち
- 課題を共有したものの解決されずに長く残り続ける
そんなときに Sailboat Retrospective フレームワークを知り、上記課題を解決することを期待して導入に至りました。
導入時には、KPT を利用していたチーム状況が似ていることもあり、こちらの記事を参考にさせていただき、振り返り要素などを参考にしました。
振り返りのアジェンダ
私のチームでの振り返りのアジェンダを紹介します。
ファシリテータはスクラムマスターが務めますが、慣れてきたらメンバーで当番制にしても良いかもしれません。
アイスブレイク (5分)
チームメンバーの調子と1つの話題について付箋で共有してもらい、ワイワイ話します。
前回のスプリントで設定したアクションの振り返り (1分)
前回のスプリントで設定した、今スプリントで実施すべきアクションを達成できたかどうかを確認します。
達成できていたら付箋を剥がし、達成できなかった場合は原因を議論して、継続アクションとするか別のアクションにするかを決定します。
今スプリントで完了できなかったタスクの確認 (5分)
スプリントで完了できなかったタスクがあれば、担当者に進捗と完了できなかった原因などを共有してもらいます。
セーフィーでは Backlog でタスクを管理しているため、実際にチケットを眺めながら確認しています。このときにベロシティなどについてもチームで共有します。
今スプリントの振り返り (5〜10分)
まずは5分間を計測し、各メンバーが今スプリントでの出来事や感じたことを自由に付箋に書いて各要素に貼っていきます。時間が足りないときは適宜延長します。
FigJam ではタイマーと連動した BGM を流すことができ、作業中も静まり返らないようにするため、個人的にお気に入りの機能です。
付箋の内容について各メンバーから共有してもらう (10分)
付箋を順番に見ていき、付箋を貼ったメンバーから内容を共有してもらいます。
私のチームではポジティブな要素から順番に共有しています。他のメンバーは良いところを褒めたり、リアクションスタンプを付箋に追加して、メンバー全員が議論に参加するという雰囲気作りを意識します。
次回のスプリントで具体的にアクションすべき付箋を決める (1分)
1分間を計測し、各自が次回のスプリントで具体的なアクションとして取り組むべきと考える付箋に投票します。
投票数の制限はなく、一人あたり何票投票してもOKです。このとき、投票者が分かるようにしています。FigJam では自分のアイコンのスタンプを利用できます。
具体的なネクストアクションを決める (2〜4分)
1票以上投票されている付箋の内容について議論し、具体的なネクストアクションを決めます。
議論の内容や決定したアクションは、別枠を設けて新しい付箋に書いて貼ります。実行しづらい抽象的なアクションを避けて、可能な限り具体的に実行しやすいアクションにします。たとえば、チームのルールとしてドキュメント化、タスクとしてチケットの作成、チームで相談したいのでカレンダーに追加、などです。
まとめ
これまで Sailboat Retrospective での振り返りを行ってきましたが、先述した課題は解決され、以前よりチームの一体感が醸成されたと感じています。
Sailboat Retrospective には、改めて以下のメリットがあると感じています。
- 視覚的な要素を含むことにより、チームメンバーが直感的に理解しやすく、リアクティブに楽しく振り返りできる
- 問題点 (Anchor) や推進力 (Wind) など、プラス面とマイナス面をバランスよく議論することにより、チームがどの方向に進むのか、何が進捗を妨げているのかを明確に把握できる
- 具体的なネクストアクションを設定することで、課題が長い間放置されず解決に進む
ルールも簡単なので、振り返りを少し変えてみたいというチームにオススメしたいです。今後もより良い振り返りに改善していきます。
参考
Sailboat Retro FigJam board 脱 KPT 法で楽しく有意義に振り返り! Sailboat Retrospective Backlog