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技術だけでは動かせない。テックリードが組織と対話を学んだ6冊

はじめに

セーフィー株式会社 AI開発部 でテックリードを務めます橋本です。

テックリードとしてキャリアを積む中で、避けては通れないテーマの一つが「レバレッジの効いた仕事」です。つまり、自分一人のアウトプットを超えて、チームや組織全体により大きなインパクトを与える働きが求められるようになります。

その中でも、特に重要だと感じているのが「組織力の強化」、つまりチーム開発です。どれだけ自分が手を動かしても、個人の力には限界があります。しかし、自分が持つ知識やノウハウ、考え方をメンバーに共有し、仕組みとして浸透させることができれば、その効果は現在だけでなく、将来のチームにも大きなレバレッジを生むと考えています。

私の前職は、個人主義が強い研究職の文化に身を置いており、チーム開発や組織に働きかける経験はほとんどありませんでした。実際、チームの成長のために良かれと思って行った発言が、批判的に受け取られ、防衛的な反応を招いてしまったこともありました。結果として、チームに良い影響を与えたいという気持ちとは裏腹に、うまくいかないと感じることがありました。

本記事では、そうした課題感から学び始めた チーム開発やコミュニケーションに関する書籍 を紹介し、読書を通じて得た気づきや学びを紹介したいと思います。

読んだ本

「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?

著者: 今井 むつみ
出版社: 日経BP
発売日: 2024/5/9

概要

思考のスキーマについて、分かりやすく解説しています。聞き手は、自分が発した言葉そのものではなく、これまでの経験や価値観を手がかりに「意味を補完・再構成」して受け取ります。これが、何回説明しても伝わらない大きな理由だと述べています。

気づき

これまで、聞き手が正しく理解してくれることを想定して、説明力を付けることを意識していました。しかし、本書を通じて、聞き手の頭の中に再構成された情報に注意を向けることが重要だと気付きました。

NVC人と人との関係にいのちを吹き込む法

著者: マーシャル・B・ローゼンバーグ
出版社: 日本経済新聞出版
発売日: 2018/2/17

概要

Non-Violent Communication(NVC、非暴力コミュニケーション)について提案しています。何かを依頼するときや、相手と対立が生じているとき、私たちの内面では「観察」「感情」「ニーズ」「要求」というプロセスが起こっています。自分と相手の内面のプロセスに注意を向けることで、対立を避け相互理解を深められると述べています。

気づき

何か依頼するとき、私たちは、現状のままで依頼が受け入れられないと「開発効率が悪化する」「不具合の原因になる」といった不安(感情)を根底に持っています。今までその感情を伝えることを考えたことはありませんでしたが、本書を通じて重要性に気づきました。

サーチ・インサイド・ユアセルフ

著者: チャディー・メン・タン
出版社: 英治出版
発売日: 2016/5/17

概要

Google のエンジニアの視点で、マインドフルネスとその効果、その能力を高めていく実践法を、科学的な知見に基づき解説しています。特に「マインドフルネスとは、今この瞬間に注意を向ける能力」であることを、エンジニアにも馴染みやすい表現で丁寧に伝えています。

気づき

これまで紹介してきた本では「内面に注意する重要性」が強調されていましたが、本書では、その注意力をどう高めるか、具体的な方法が示されており、理解が深まりました。

ヤフーの1on1

著者: 本間 浩輔
出版社: ダイヤモンド社
発売日: 2025/2/19

概要

ヤフー社が実践してきた1on1ミーティングのノウハウを紹介しています。1on1の目的はメンバーの成長支援であり、沈黙や問いかけによって、メンバー自身の気づきを引き出すことが重視されています。また、コミュニケーションを「意図が伝わり、相手の行動が変わること」と定義している点も特徴的です。

気づき

コーチングの重要性は頭では理解していたものの、実践できていないという自覚がありました。1on1の目的や沈黙の価値を改めて認識し、設計を見直したいと感じました。また、伝えたつもりで終わらせず、相手が動ける状態になるまで責任を持つ姿勢の重要性にも気づきました。

ダイアローグ――対立から共生へ、議論から対話へ

著者: デヴィッド・ボーム
出版社: 英治出版
発売日: 2007/10/2

概要

物理学者である著者の経験から生まれた本書では、対話(ダイアローグ)の本質が語られます。ダイアローグとは、個々の意見をぶつけ合うのではなく、集団で意味を紡ぐ参加型思考です。組織が陥りやすい「断片化」(考えや価値観がバラバラな状態)を乗り越え、全体が「コヒーレント」(一貫性を持った状態)になることで、組織の力が本当に発揮されると述べています。

気づき

断片化が進むと、チームのエネルギーが分散し、レバレッジが効かなくなるという点が非常に腑に落ちました。テックリードとして、メンバーが同じ方向を向けるように、意識的に対話の場を作っていきたいと感じました。

学習する組織――システム思考で未来を創造する

著者: ピーター・M・センゲ
出版社: 英治出版
発売日: 2011/6/22

概要

組織が学習するとは、個人や組織が持っている前提や思い込み(スキーマ)を更新することだと定義しています。そのためには、組織内でダイアローグを行い、共通認識を作ることが重要です。また、システム思考を用い、組織の課題がどこにあり、どこにレバレッジポイント(少ない力で大きな変化が起きる場所)があるのかを具体例を交えて解説しています。

気づき

これまで読んできた本で語られていた「スキーマ」「対話」「内面への注目」と、組織開発が密接に関係していることを理解できました。特に、システム全体を捉え、どこに働きかければ最大の変化を生むかを考えるレバレッジ思考は、テックリードとして実践していきたい重要な視点です。

おわりに

本記事では、チーム開発やコミュニケーションに関する書籍を通じて、私自身が得た気づきや学びをまとめました。

特に印象的だったのは、チームメンバーとの関係性、対話の質、そして内面への理解といった、一見すると曖昧で目に見えない部分こそが、チームの力を最大化する鍵であるということです。説明が伝わらない、対立が生まれる、チームが同じ方向を向けないといった問題は、単に個人のスキルだけでは解決できない、もっと深い要因があるのだと分かりました。

もし、同じような課題や悩みを感じている方がいれば、今回ご紹介した書籍や学びが少しでも参考になれば幸いです。

最後になりますが、書籍の選定に際し、当社CTOの森本数馬、および鎌倉マインドフルネス・ラボの宍戸幹夫様よりご助言をいただきました。この場を借りて、心より感謝申し上げます。

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