企画本部の下崎です。
セーフィーはカメラというイメージを持つ方が多いかもしれませんが、カメラ以外にもいろいろなサービスを作って提供しています。本記事では、商品・サービスの紹介もかねて、これまでの商品開発の歴史を書きたいと思います。
クラウドカメラ1号
初めてのカメラ開発
2015年5月、クラウドファンディングMakuakeを利用して最初に販売したカメラが、書画カメラで有名なELMO社と共同開発した、QBiC Cloud CC-1です。
このカメラは、ハードウェアおよびOSなどのシステム周りの開発と製造をELMO社、カメラ制御や通信まわりのソフトウェア(デバイスSDK)をセーフィーが提供して作りました。2014年11月に本格的な開発が開始してから約6カ月でサービスインするという大急ぎのスケジュールです。それまでにカメラだけではなく、映像を見るためのアプリやサーバーシステムも準備しなければなりません。
ELMO社との共同開発が決まるまでには、いくつかのカメラメーカーだけではなく、自社ブランドで設計と製造ができるODM企業とも話をしましたが、通常のIoTベンチャーとは異なり、カメラ自体の自社開発・ブランドにはそれほどこだわりませんでした。セーフィーではユーザーの不を解消するサービスの提供を第一に考えているからです。ネットで探せば安いものは数千円の「ハイスペック」なカメラが山のように見つかりますし、メールやテレカンでやり取りをして開発費さえ支払えばカメラを作ってくれる海外のODMメーカーも数多くあります。ただし、自分も電機メーカーにいたから言えるのですが、単にスペックを満たしたものを作ることと高品質な優れた製品を作ることは同じではありません。ソフトウェア開発はできるという(根拠のない)自信がありましたが、当時の私たちにはハードウェアを設計する技術も生産管理のノウハウも無かったので、それらを補い共に製品を作り上げてくれるパートナーを必要としていました。
クラウド技術を求めていたELMO社さんとは、お互いの技術を提供しあう対等な関係で開発をしていただきました。今考えれば社員3人の会社と、2014年の夏に最初に会った時にはまだ会社すらなかったのに、良く共同開発に踏み切ってくれたものです。この幸運に恵まれた出会いがなければセーフィーという会社は無かったかもしれません。
「どこでも簡単」とはいかないビューアー開発
カメラは作る当てがつきましたが、撮影した映像を見るためのビューアーも必要です。「どこでも簡単」を追求したサービスを作ろうと考えていましたので、選択肢はウェブかスマホアプリ。外出中でも簡単にみたいのでスマホの中でもシェアの大きいiOS用アプリをまずは作ることにしました。「どこでも簡単」のこだわりは今でも続いていて、カメラ映像の視聴や設定・操作を始め、画像解析サービスまで、ブラウザもしくはスマホアプリから煩雑なセットアップ無しで利用することができるようにしています。
現在はビジネス用途の割合が多くなりましたが、サービス開始時にはいわゆる見守り系でコンシューマー市場をターゲットにしていたので、マニュアル無しでも直感的に操作できるUIを目指して設計を行いました。そのUIを5年ほど引き継いで機能追加するにつれ、徐々に改良したい点がUI的にも内部実装的にも出てきました。そこで、操作性をさらに高めた新モバイルビューアーの開発に踏み切り、間もなく2020年5月に提供開始する予定です。
当時はエンジニアが3人しかいなかったので、機能仕様と主な画面のワイヤーフレームを作成したらアプリの実装はツテのあった開発会社さんの力も借りました。ただどうしても上手くいかなかったのがBluetoothの実装でした。BLEのアドバタイズメントを利用してカメラを検索して接続、アプリから設定するという設計はできたのに、肝心のデータのやり取りがどうしてもできない。あるのはBluetoothチップの仕様書だけ。しかもあまりメジャーなものでは無かったので、カメラメーカー含めて実際に使ったことのある人が誰もいないのには困りました。ネットのサンプルを参考にしても上手くいかないので、Bluetoothの電波をキャプチャして通信内容を表示できるプロトコルアナライザーまで使い、メーカーの人といろいろやってみるのですが、全然データのやり取りができないのです。CC-1はWi-Fiしか通信インターフェイスが無いので、その設定をしないと何もできません。最初はそのうちできるだろうと考えていたのですが、そうこうしているうちにデモを見せるプレス発表が翌週になってしまいました。そのギリギリの時に、同じBluetoothチップを使っている会社を何とか見つけ、頼み込んで使い方を教えてもらうことができました(ちなみにそういう時に限って新幹線を乗り過ごし、さらに乗ったタクシーが道を間違えて打ち合わせに遅刻しました...)。
トラブルもありましたが、クラウドファンディングではCC-1を500台以上を販売することができ、何とか満足のいくスタートを切ることができました。
サービス開発
みる、をもっと便利に
iOSアプリが完成したので、直ぐにその設計を元にAndroidとウェブアプリに横展開しました。これで撮る、みる、ためるという基本的な機能は実現できましたが、「賢くなるカメラ」と銘打ってサービスを提供していることもあって、ユーザーからは様々な要望が寄せられて来ます。その中の一つが、映像を公開して大勢の人に見せたいというものでした。そこでカメラで撮影したライブ映像とYouTube Liveの連携サービスが生れました。最初はYouTubeやFacebookなどいくつかのライブ配信サービスとの連携を試してみて、技術的には実現可能なことが分かっていましたが、どれぐらいのビジネスになるかはっきりしないこともあって正式なサービス提供にまでは至っていませんでした。
そんな状況の転機になったのが、2016年8月に九州朝日放送と組んで実施した、KBCオーガスタゴルフトーナメントの定点カメラ映像のライブ配信でした。石川遼選手などが参戦するメジャーな大会なので当然テレビ中継されるですが、打撃練習場や選手がティーショットをするまでの準備など、ゴルフをやっている方にとってはテレビ放送されないシーンでも面白いところがいっぱいあるそうです。たまたまセーフィーのカメラでライブ配信もできるんですよ、と紹介したことがきっかけで、大きなイベントで利用していただき、その後はイベント配信だけではなく、河川監視など公共での利用にまで活用の幅が広がってきています。Safie Cultureの一つに「迷った時はやってみる」があるのですが、ユーザーの声に耳を傾けて技術の可能性にかけたエンジニアと、それを素早くかつタイムリーに届けて形にした営業の、まさにやってみたことでつかんだ成功例でした。この開発の姿勢は今でも大切にしていることの一つで、人数カウントやPOSレジ連携、Safie Visitorsなど顔認識サービス、といった新サービスを生み出す原動力にもなっています。
ユーザーの課題を解決する「Safie Apps」
セーフィーは多くの飲食・小売店でご利用いただいていますが、トラブルや不正が発生しやすいレジを撮影していることが多いです。カメラの設置が抑止力となって何も起きないのが一番ですが、トラブル発生時には映像を探して確認するために、店長さんは貴重な時間を使うことになります。セーフィーでは過去の映像を簡単に再生してみることができますが、正確な時間が分からない場合には特定のシーンを探すのは結構大変です。そのようなお悩みを解決するために生まれたのが「POSレジ連携」です。
POSレジの売上データ(ジャーナルと呼ばれます)と映像を結び付けることで、映像の検索性が飛躍的に高まります。POSシステムのインターフェースやジャーナルの仕様は規格化されていないため、連携させるためにどうしてもある程度の個別対応が発生してしまうのですが、対応するPOSシステムの数を少しづつ増やしていっています。
また、POSレジ連携以外にも、顔認識を利用した「Safie Visitors」のようなAIや画像解析の技術を活用し、映像の検索性を高めるサービスの開発を積極的に行っています。
サービスそのものではないのですが、ユーザーの細かいニーズにも応えると同時に、新サービスをより早く開発できるようにしたいという思いで開発したのが「ダッシュボード」です。法人向けのサービスを行っていて、ありがたいことに日常業務に組み込んでご利用いただいていると、業務に合わせてカスタマイズしたいという要望をお聞きすることがあります。例えば、エリアマネージャーが自分の担当店舗ごとに映像と人数カウントの入出店者数を確認するような場合です。もちろん、カメラ映像をひとつずつ確認することはできますが、それでは日常業務として作業効率がよくありません。「ダッシュボード」によって、ユーザー自身で店舗ごとの映像と人数カウントグラフをまとめた画面を作成する、といったことが可能になりました。
最初は映像をみる機能の拡張から始まったサービス開発ですが、現在ではもう一歩進んでユーザーの課題そのものを解決するソリューションを開発し「Safie Apps」として提供しています。
コンシューマーからエンタープライズへ
1台から数万台まで
2017年にCC-1の後継機種CC-2の提供開始に合わせて、自社ECサイトをオープンしました。それまでもAmazonなどでカメラを購入することはできたのですが、カメラが到着したら設定作業を行う必要がありました。自社ECサイト経由で購入していただくことで、出荷時に必要な設定を行ったうえでお届けすることができるようになり、さらに置くだけ簡単度合いが高くなりました。
このころになると、数十台~数百台以上のカメラを導入する所謂エンタープライズ領域のユーザーが出てきました。各ビューアーアプリはカメラが1台でも数百、数千台でも利用していただけますが、カメラだけではなく利用するユーザーや設置拠点数も多くなるため、どうしても管理の手間がかかります。例えば、カメラを新しい拠点に導入したら、アカウントの追加が必要になりますし、異動や退職が発生したらアカウントの変更をしなければなりません。このような管理作業をより便利にしていただくために開発したのが「Enterprise Tool」です。
最初はカメラ数が少なかったユーザーも、追加していくうちに気が付くと結構な数をお使いいただいていることがあります。エンタープライズと呼ばれるような大企業のみならず、より多くの方にお使いいただくためにも、エンタープライズツールを「Safie Manager」としてリニューアルし、更に使いやすくしています。
より多くのカメラを
ユーザーが増えると、それに伴ってカメラの利用用途や設置環境も様々になります。Wi-Fi接続のCC-1カメラの後には有線LAN接続で屋外対応のCP-1を開発しましたが、全ての用途に対応するにはまだまだ機種が足りません。カメラといっても形状や機能で、ドーム型、バレット型、PTZ、パノラマなど様々な種類があるのですが、全部開発するほどのリソースはありません。そこで、既に販売されている汎用ネットワークカメラをセーフィーのサービスで使えるようにするために「ゲートウェイ」を作りました。ネットワークカメラは映像を取得したり制御したりするためにRTSPやONVIFといった規格化されたインターフェースを持っていることが多いです。通常はカメラと一緒に設置したレコーダーやサーバーがこのインターフェースを使って映像を取得して保存するのですが、ゲートウェイは取得映像をセーフィーのサーバーに暗号化して転送します。セーフィーカメラと同様にサーバーから制御することもできるので、ユーザーからみると同じように使うことができます。これによって、カメラの種類が増えたのみならず、既に設置してあるカメラを利用することもできるようになりました。
このゲートウェイですが、最初は製造委託するほどのボリュームが無かったので、自分たちで作っていました。 シングルボードコンピュータを仕入れてファームウェアを焼き込みます。丁度いいケースがなかったので、町工場の板金屋さんに手書きの図面を持ち込んで作ってもらい、その中にボードを組み込みました。販売数が増えて、性能向上もかねた新モデルを製造を委託するようになるまでは、大口の発注が入ると、嬉しい反面で納期に間に合わせるための製造作業が忙しくなっていました。
より多くの販路を
ゲートウェイで利用できるカメラは増えたのですが、汎用のインターフェースを使うので、設定の簡単さや機能の追加には限界があることも分かってきました。その時に見つけたのが、ネットワークカメラメーカーのAxis Communications社のACAPやVivotek社のVADPといったアプリケーションプラットフォーム機能でした。それらを利用すると様々なモデルのカメラに自分で開発したアプリケーションをインストールして動かすことができるので、対応機種を大幅に増やすことができそうです。狙いは当たり、現在ではセーフィーに対応したカメラは数百機種にまで増えました。
実はAxis Communications社のカメラに対応したのにはもう一つの理由がありました。販路を増やしたかったのです。新規創業からしばらくは知名度も自社の販売力も低く、カメラを作って一緒にビジネスをやろうというメーカーも、知らないスタートアップが作ったカメラを扱おうという販売会社もほとんどありませんでした。その点、カメラのアプリケーションプラットフォームを利用すると市販のカメラが使えるのでスモールスタートが可能です。またマーケットシェアもあるのですでに販売している会社も多いです。最初はカメラを仕入れるためのアカウントをディストリビューターに作ることができず、出資を受けていたソネット(現在のソニーネットワークコミュニケーションズ)さんに紹介をお願いして何とかなったぐらいでしたが、現在ではAxis Communicationsと同じグループ会社(2015年に当時世界最大手だったAxis Communicationsをキヤノンが買収しました)のキヤノンマーケティングジャパンさんを含め、100社以上の販売パートナーにセーフィーを扱っていただけるようになりました。
どこでも簡単
モバイルカメラとの出会い
「どこでも簡単」を商品開発ではひとつのキーワードにしています。スマホやタブレットを使えばどこでも見るのは簡単ですが、撮影はやはり固定したカメラで行うしかありませんでした。そんな時に偶然出会ったのが、お客さんが自作したモバイルカメラ、「ボックス型CC-1カメラ」です。
きっかけはCC-1の映像が途切れるという問い合わせでした。場所は工事現場だということなのできっとWi-Fi環境が良くないのだろうと行ってみると、小さな箱にカメラとモバイルWi-Fiか何かのルーターが詰め込んであります。お客さん自らがこんなソリューションを作っていたということは大きな衝撃でした。不具合の原因は通信容量の上限に達して帯域制限がかかったことだとすぐに分かったのですが、帯域制限という問題自体の解決は簡単ではありません。映像撮影時のビットレートは通信状況に合わせて自動制御されるので、通信状態が悪くても映像を視聴することはできるのですが、どうしても画質はいまいちになります。根本原因そのものを解決するしかありません。代表の佐渡島はインターネットプロバイダーのソニーネットワークコミュニケーションズ出身だったこともあって、カメラが主に使うインターネットのアップストリーム帯域には空きがありそうだと思っていました。そこでソニーネットワークコミュニケーションズと交渉し、アップストリームだけを帯域制限なく利用できるカメラ専用のLTE通信契約を作ってもらったのです。
モバイルカメラの商品化
通信帯域の問題が解決したので、「ボックス型CC-1カメラ」を組み立てているところを紹介してもらい、セーフィーでも商品として扱うことにしました。インターネット回線のない工事現場や駐車場を始め、災害発生時には電源にさすだけで動作するという特徴を活かし、状況を素早くかつ継続的に把握するために利用されました。ただ、使っていたカメラのCC-1は屋外向けではないうえに、小さな箱に詰め込んであるので、夏場に温度が高くなると動かなくなることがあるという悩みがあったのです。
そんな時に、夜間でも撮影したものが欲しいという依頼が来ました。丁度Axis Communications製カメラ向けファームウェアのプロトタイプが出来上がっていたので、屋外用で暗所撮影に強いモデルを選び、LTEルーターと組み合わせたものを使ってもらうことにしました。稼働直後に発生した不具合をリモートから解析してソフトウェアアップデートすると、安定して動きます。晴れた日もこれで怖くなくなりましたw。画質についても評判は上々で、追加発注ももらったので、これを新ボックス型カメラにすることを考え始めていました。そんなところにあったのが、サカキコーポレーションさんからのお声がけでした。お話を聞くと、太陽光発電所向けにセンサーとそのデータをモバイル回線経由で収集する機材を売っているとのこと。カメラも設置したいという要望が多いので、ボックス型CC-1カメラみたいなものを何か一緒に作れないか、というご相談でした。
新ボックス型カメラにもルーターのリモート制御ができないという課題がありました。セーフィー対応のデバイスはリモートから状態の取得や制御、ソフトウェアアップデートを行うことができるようになっています。それによって、安定した運用や機能追加による「賢くなるカメラ」を実現しているのですが、それが市販のルーターではできません。それらの機能に加えて、屋外対応やPoE(Power over Ethernet)といったカメラ設置のための機能も兼ね備えたものがサカキコーポレーションの全天候型防水カメラルーター「SCR1800」とそれを利用したLTE搭載クラウド型防犯カメラ「Safie Go」シリーズです。
固定インターネット回線がないところでも電源さえあれば簡単に設置してセーフィーを利用できることによって、工事現場など数多くの場所に設置いただき、防犯や現場を遠隔地から確認することによる業務効率化などに活用いただいています。Safie Goに続いては、小型化とバッテリー駆動により身につけて持ち歩くことができ、見る・聞くに加えてWebRTCによる双方向のコミュニケーションも兼ね備えた「Safie Pocket」シリーズへと、さらなるどこでも簡単を追求をした開発を続けています。
また最近では、業務効率化に加えて、新型コロナウィルス対策のために現場での対面検査を避ける必要がでてきました。リモートから映像を用いてリアルタイムに工事の状況確認と承認を行う「遠隔臨場」が要請されるにつれて、「Safie Go」「Safie Pocket」共に改めて注目されています。
エコシステム
セーフィーでは「映像から未来をつくる」をビジョンに掲げ、ユーザーの課題を解決する商品を作り続けて来ました。カメラの映像を見るという基本的なサービスから始まって、ユーザーが見る必要を無くす画像解析やAIの技術を取り入れたサービス、時間と場所の制約を超えたコミュニケーションを可能にするサービスへと幅を広げています。我々は最新の技術を取り入れたサービスを開発して提供するのはもちろんのこと、映像のプラットフォーマーとして自分たちの技術をさらに活用してもらう方法を提供していきたいと考えています。ご紹介したカメラの共同開発に加えて、テックパートナーへのAPI公開やアプリケーションSDKの提供により、セーフィーの映像プラットフォームとテックパートナーの技術の相乗効果による新サービスが生み出され、より多くのユーザーの課題を解決する。それによって強化されたプラットフォームがさらなる新サービス開発の原動力になる。そのようなセーフィーを中心としたエコシステムを構築していくための活動も開始しています。
もっと手軽で便利に防犯カメラを使えるようにしたい、という小さな思いから3人で始めたセーフィーのサービスは、ユーザー様やパートナー企業様を始めとした多くの方々に支えられて、プラットフォームに発展し、さらに多くの人や技術を巻き込んで成長しています。
これからも歩みを止めることなく新しい商品をどんどん提供していきますので、お楽しみに!
最後に
セーフィーでは新しい商品を一緒につくっていただけるエンジニアを募集しています!